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焼き物、褐色に香る肉の魅惑

胃袋を刺激する艶姿

焼き物は広東料理の定番中の定番。香ばしい皮のパリパリ感と肉のジューシーさが命。

 街にはさまざまな匂いがあるが、極彩色のネオンと喧騒の都、香港の匂いは何かといえば、やはり、焦げた肉としたたる脂の「焼き」の匂いだろう。

 空港に降り立った瞬間、嗅覚を目覚めさす、あの混沌とした独特の空気。「ああ、また来たんだな」と匂いにつられて心がときめいてしまう。食欲旺盛な香港人でにぎわう空港食堂は、麺に炒め物に粥、点心、肉、野菜、そして丼ものにと何でもあり! 中でも彼らが好んで食べているのが、チャーシューや鶏、ガチョウの釜焼きなどの焼き物である。

 街に繰り出そう。いたいた! 店のガラス窓の向こうには、旅人の胃袋を刺激する褐色の丸焼き肉の縦列と横隊を至るところで見ることができる。「素通りしようってのかい?」とでも言いたげな、これ見よがしの艶姿。アヒルやハトの丸焼き、腸詰め、豚バラ。それらのこんがり飴色に輝く様は、いかにも食ワールド香港らしい光景である。

 大衆食堂はもちろん屋台や弁当屋、あるいは超一流といわれるレストランにしても、この「焼き物」なくしては香港ではお話にならない。広東料理の定番中の定番といわれる丸焼き肉がどの店でも美味なのは、「シュウラッ」と呼ばれる“焼き”専門の職人がいて自慢の腕を競っているからだ。その香港の中でもピカイチと評判なのが中環(セントラル)にある「●記酒家」だ。堂々たるガラス張りの店構え全面にこんがり焼きたてのガチョウの群れが長いクビを金串に吊るされて並ぶ様はまさに圧巻。これ以上ないパーフォーマンスだ。

 世界中の美食家をうならす「●記酒家」だが、もともとはガチョウだけを扱う屋台に毛の生えた程度の小さな大衆料理店だった。それが、香港で2年に1度開かれる恒例の料理コンクールで、91年にガチョウのローストで優勝してから一躍有名になった。店は大きなビルとなり、この香港名物を求める人たちの足は一日中絶えない。多い日は1日300羽のガチョウを焼くこともあるという。

旨みは“強火”で引き出せ

 この焼き物、なんと言っても香ばしい皮のパリパリ感と肉のジューシーさが命。 ガチョウの釜焼き然り、皮付き豚バラ肉の焼き物然り。ひと口噛んだ時に「カリっ」と皮のはじける感触と香ばしさ、口の中にじわっと広がるジューシーな肉の柔らかさは、まさに職人のなせる技。肉のうまみを生かすも殺すも“焼き”の技術にかかっている。

 焼き物を焼く釜=掛炉(ゴウルゥ)は人の背丈ほどの大きな吊るし釜。火の回りがよく、素材にきれいな焼き色がつくよう釜の内部の温度は300度Cにもなるという。名人はこの高温の釜で肉を強火で短時間で焼く。最初から最後まで強火で一気に約40分。ひとつ間違えば表面が焦げて中は生焼けになってしまう。名人だけが知る焼き加減のサインを見ながら最高のうまみを引き出すのだ。

 釜の火の中でガチョウの皮の表面に凹凸のしわが出る瞬間や、叉焼や豚バラ肉から透明な脂(焼き汁)が出て来る瞬間などを灼熱の釜の前でこまめに見定める。釜入れ前の肉の重さを手で見極めて、火入れ加減を判断するのは言うまでもない。職人の勘と技は、長い修行と火に負けぬ度胸のいる仕事だそうだ。

 広東料理店の厨房の裏を覗いてみよう。そこが手間仕事を惜しまぬ店ならば、通りから見るのとは別の顔をしたガチョウやアヒルのたちの串行列があるはずだ。見事な褐色の艶姿を翌日披露するために、腹の中にはぎっしりと薬味を詰め込み、皮の表面には酢で割った水飴が塗られ、ひと晩中扇風機の風にあてられた陰干しの鶏たちが静かに眠っている。

 「焼き物」は広東料理だけの調理の技。“焼き”の醍醐味。香港の街では1日にいったい何羽のガチョウが胃袋に消えていくのだろう……。

 ※●は金ヘンに庸
(2004/5/6)

佐野由美子(さの・ゆみこ)
 レストランプロデューサー、中国料理研究家。
広東名菜「赤坂璃宮」をはじめ各地の中国料理店の顧問などを務める。中国茶講師としても活躍。中国の食文化の普及に貢献したとして平成15年度社会文化功労賞を受賞。
 代表取締役を務めるカメリアエンタープライズは、ホテルなどのレセプションや食にまつわるイベントの企画、コーディネート、運営などをサポートしている。






東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル5F

営業時間
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電話 03-3569-2882
交通 銀座線・日比谷線「銀座駅」A2出口より徒歩3分
定休日 年中無休
 新しく銀座の交詢ビルにオープンした赤坂璃宮。限りなく本場広州に近い、素材の旨味を生かした広東料理にこだわる。
スッポンのスープや煮込みなど、早めの予約が必要とのこと。可能な限り食材を手配して応えるという。


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