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医食同源、二号さんのスープ

主婦は家庭の「食医」

杏仁とクレソンのスープ――クレソンは傷んだ喉を癒し、杏仁は肺機能を整えてくれる。ビタミンBがたっぷりの豚肉を加え、スープが半量になるまで弱火でことことと煮込む。

 私が赤坂璃宮の顧問をして早8年。中国料理店で働いていてつくづく幸せだなあと思うのは、店の中にいつも「健康パワー」が溢れていること。空気の乾燥した外回りの仕事から戻って喉をゼイゼイさせていると、香港から来たコックのリャンさんが、厨房の忙しい合間をぬって「杏仁とクレソンと砂肝のスープ」を作ってくれたり、私が疲れた顔をしていると「干し山芋と蓮の実のスープ」をさりげなく出してくれたりする。クレソンは肌のかさつきを潤し、蓮の実は精神安定、血圧を下げる効果があるという。「効くから食べてごらん」。ありがたくて涙が出る。

 顔を合わせれば「ごはん食べた?」と挨拶代わりに声をかけてくれる中国人のコックさん。「いい仕事は元気な体から」が信条の中国人の食に対する基本的な考え方にふれる思いがする。「すべての食べ物は体に良い」→「大事なのは食べ方のバランス」→「食べながら病気にかかりにくい体をつくる」。「食」という字は「人」に「良い」と書きますしね。つまり「医」と「食」は「同じ源」ということ。で、医食同源。医食同源というと「薬膳」あるいは「漢方薬」といった、ある種、特別なメニューや療法を思い浮かべがちですが、中国では母から子、そして孫へと、ふだんの食生活を通じて受け継がれる健康の知恵なのだ。

 たとえば、赤坂璃宮の料理長、譚彦彬(たん・ひこあき)さんの子供時代の話。譚さんのご両親は広東の出身。広東は植物系漢方薬の種類が豊富なこともあって「医食同源の故郷」とも称される。幼い譚少年が鼻水を垂らしていると、お母さんが「風邪にはこれが一番」と白菜と豚の赤身、クコの実や干し山芋を入れたスープを作って食べさせてくれた。「ちゃんと食べないと学校には行かせないよ」。肌が乾いてカサカサしていれば「揚げ物はやめて野菜のスープにしよう」。咳がひどいと「スープにクコの実を余分に入れてお食べ」。そんなふうに譚少年の家では、ふだんから医食同源に根ざした会話が飛び交っていた。

 「中国では家族の健康状態を見ながら毎日の献立を考えるのが主婦の務めなのです」と譚さん。「ことに、広東の女性は働き者。稼ぎ手として重要な存在だから病気なんかしてられないし、病気になっても早く治して働かなくてはならない。日ごろから医食同源を考えた食事に気を配るのは当たり前のこと」

旬を食べるが良し

 「中国料理には季節感が乏しい」とおっしゃる人をたまに見かけますが、それは大間違い。食べることで年中丈夫な体でいたいと願う中国人ですもの、彼らほど旬の食材にこだわる国民はいないと私は思う。以下は、いつの間にか私の耳にタコが出来るほど教え込まれた中国人の「食べる」大原則。

 <春> 冬の間に体にたまった毒を体外に出して血液をサラサラにしよう。春野菜をたっぷりと摂る。特に根菜、茎野菜、菜っ葉など。
 <夏> 暑気(体の熱)を取り除こう。腎臓の働きを高める。瓜(うり)系の野菜。冬瓜、ヘチマ、スイカ、イガ瓜、トマトなど。
 <秋〜冬> 体を暖めよう。増血。ひと冬を越すための体力をつける。野禽獣(ジビエ)、中国では“野味(イェイメイ)”いう。ヘビ、スッポン、ヤギ、豚、ウコッケイなど。

 いずれの季節も、食材のエキスを吸収しやすいようにスープや煮込みにすることが多い。中国人が大好きな冬の「上海蟹」も、一緒に生姜湯を飲みなさいと口すっぱく言うのは、彼らが体を冷やすのをとても嫌うから。そんなところからも、中国人の食と健康と旬に対するこだわりが伝わってくる。

本妻だって負けない

 中国の人はスープのない食事なんて考えられないらしく、見ていると具は残しても汁だけはしっかり飲み干している。香港に行ってもスープ専門店なるものをたくさん見かける。中でも人気なのが「阿二●湯(アーニーレァントン)」というチェーン店。店名は「二号さんのスープ」という意味で、10数種類の薬草が入ったスープなど30〜50のメニューがある。なんでまた「二号さん」なのかというと、その昔、中国は一夫多妻で、料理が上手じゃないと二号さん、三号さんにはなれなかったのだそうだ。美味しい手料理で旦那サンをつなぎ留めようというわけなのだが、美味しいだけでは失格。旦那サンの体調を見ながら食事を作り、健康管理をしっかりやってあげないと振り向いてもらえなかった――という現代の殿方にはため息の出そうな中国悠久の食物史。最近は「阿大●湯(アータイレァントン)」というライバル店も出現。阿大は「本妻」。「本妻だって負けないわよ」といったところか。

 ※●は青ヘンに見

(2004/4/5)

佐野由美子(さの・ゆみこ)
 レストランプロデューサー、中国料理研究家。
広東名菜「赤坂璃宮」をはじめ各地の中国料理店の顧問などを務める。中国茶講師としても活躍。中国の食文化の普及に貢献したとして平成15年度社会文化功労賞を受賞。
 代表取締役を務めるカメリアエンタープライズは、ホテルなどのレセプションや食にまつわるイベントの企画、コーディネート、運営などをサポートしている。





東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル5F

営業時間
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電話 03-3569-2882
交通 銀座線・日比谷線「銀座駅」A2出口より徒歩3分
定休日 年中無休
 新しく銀座の交詢ビルにオープンした赤坂璃宮。限りなく本場広州に近い、素材の旨味を生かした広東料理にこだわる。
スッポンのスープや煮込みなど、早めの予約が必要とのこと。可能な限り食材を手配して応えるという。


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